大判例

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最高裁判所第一小法廷 昭和41年(オ)465号 判決 1968年7月11日

上告人

山田才次

代理人

西阪幸雄

被上告人

全国購買農業協同組合連合

代理人

中原保

中原康雄

主文

原判決を破棄する。

本件を大阪高等裁判所へ差し戻す。

理由

上告代理人西阪幸雄の上告理由第一点ないし第三点および補充について。

『仮処分決定ないしその執行に対する債務者の不服申立方法については、民訴法が規定するところであつて、その方法によらず、債務者が第二の仮処分を申請しそれを執行することによつて、第一の仮処分の効力を奪うことは許されないものと解すべきである』(昭和三年五月一二日大審院決定・民集七巻三五〇頁参照)。

本件において原判決の確定した事実は、上告人は被上告人を債務者として「被上告人は本件土地に自ら立ち入つたり、その使用人又は第三者を立ち入らせたりして、上告人の右土地の使用及び占有を妨害してはならず、また同所において上告人のする建築工事一切を妨害してはならない」との仮処分決定(昭和三六年六月一九日付神戸簡易裁判所同年(ト)第一六三号、以下第一次処分という)を得、該決定は翌二〇日被上告人に送達されたところ、被上告人は、翌二一日付で「小山正の本件土地およびその地上にある建築中の建物に対する占有を解いて執行吏に保管させる。小山正は右建物の建築工事を中止し、これを続行してはならない。小山正は右土地に立ち入つてはならない」との仮処分判決(神戸地方裁判所昭和三六年(ヨ)第二九五号、以下第二次仮処分という)を得て、同月二三日執行したというのである。

上告人は、本件建物は上告人が小山正に依頼して建築中であつたもので、第二次仮処分は第一次仮処分と牴触し無効であるとの理由から、第二次仮処分の執行を許さないとの判決を求めたものであるが、原審は、二つの仮処分決定は当事者を異にし、仮に小山正が上告人のため本件建物の建築工事に従事していたものであり、第二次仮処分の執行によつて小山正が右建築工事に従事できなくなつたため上告人の建築工事が妨害されたとしても、それは事実上の効果にすぎず、上告人の執行異議権を侵害したものとみることができない、として、上告人の請求を却けていること、所論のとおりである。

しかしながら、被上告人は、第一次仮処分の執行を受けた結果、上告人がする本件建物の建築工事を妨害してはならない旨の不作為義務を負担するにいたつたものであるから、小山正が上告人の依頼によつて本件建物建築工事に従事していたものとすれば、被上告人は第二次仮処分の執行によつて上告人の建築工事を妨害し、よつて前記不作為義務に違反して第一次仮処分の効力を失わしめるものであることは明らかである。かかる仮処分の執行は、冒頭説示に照らし許されないところといわなければならない。したがつて、小山正の行なつている本件建物建築が上告人の依頼によるものかどうかが結論を左右するところであるにもかかわらず、原審が、右事実を確定することなく、たやすく上告人の請求を棄却したのは、仮処分の効力を誤解した結果審理不尽理由不備の違法に陥つたものというべく、この点において論旨は理由があり、原判決を破棄し、さらに右の点を審理させるため原審に差し戻すべきものとする。

よつて、民訴法四〇七条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(長部謹吾 松田二郎 岩田誠 入江俊郎――海外出張のため署名押印できない)

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